警備・セキュリティ業界とAI:監視システムから異常検知まで
はじめに
警備・セキュリティ業界は今、大きな転換点を迎えています。深刻な人手不足と高齢化が進む中、AI技術の導入が業界変革の鍵として注目されています。
日本の警備業界は約3.5兆円の市場規模を誇る巨大産業ですが、全国警備業協会の調査によると、約93%の警備会社が警備員不足の状況に陥っています。特に警備員の平均年齢は55歳以上とされ、2025年問題として業界全体で危機感が高まっています。
このような状況の中、AI監視カメラ、自律走行型警備ロボット、顔認証入退室管理システムなど、AIを活用した次世代セキュリティソリューションが急速に普及しています。本記事では、警備・セキュリティ業界におけるAI活用の最新動向と具体的な導入事例、そして今後の展望について詳しく解説します。
1. 警備・セキュリティ業界が直面する課題
警備業界は複数の深刻な課題に直面しています。これらの課題を理解することで、なぜAI導入が急務となっているのかが見えてきます。
1.1 深刻な人手不足
警備業界における人手不足は他業界と比較しても特に深刻です。厚生労働省のデータによると、2024年4月時点で保安業界の有効求人倍率は5.57倍に達しており、警備員1人あたり約6件の求人がある状況です。全体平均の1.26倍と比較しても、その深刻さは明らかです。
人手不足の要因としては、以下が挙げられます。
- フルタイムかつ固定の就業時間が一般的で、柔軟な働き方が難しい
- 長時間労働の常態化と給与・処遇の問題
- 仕事上のリスク(事故や事件に遭遇する可能性)への懸念
- キャリアアップのイメージが持ちにくく、若年層の応募が少ない
1.2 高齢化の進行
警備員の高齢化も深刻な問題です。現在、警備員の平均年齢は55歳以上とされ、60代・70代の警備員の割合が増加しています。体力を必要とする警備業務において、高齢化は業務遂行能力の低下や急な退職リスクを高めています。
1.3 セキュリティ需要の多様化
一方で、セキュリティサービスへの需要は拡大・多様化しています。
- サイバー攻撃の増加と手口の複雑化
- 大型商業施設やイベント会場での警備ニーズ
- 高齢者見守りなど新しいセキュリティサービスの需要
- IoTデバイスの普及による監視対象の拡大
これらの課題を解決するために、AI技術の活用が業界全体で急速に進んでいます。
2. AI監視カメラと映像解析技術
AI監視カメラは、警備・セキュリティ業界で最も広く導入されているAI技術の一つです。従来の監視カメラが「記録」を主な目的としていたのに対し、AI監視カメラは「リアルタイム解析」と「自動検知」を実現します。
2.1 AI監視カメラの主要機能
AI監視カメラは、ディープラーニング技術を活用して以下の機能を提供します。
異常行動検知
カメラ映像から人の動きを分析し、通常とは異なる行動パターンを自動検知します。例えば、長時間同じ場所にとどまる人物、転倒した人、走って逃げる人物などを即座に検出できます。
侵入検知
指定したエリアへの不正侵入をリアルタイムで検知し、警報を発します。設定した禁止区域に人が入った瞬間に管理者へ通知が届くため、迅速な対応が可能です。
顔認証・人物特定
登録された人物データベースと照合し、特定の人物を識別します。マスク着用時や横顔でも高い認識率を実現する技術が進化しています。
行動分析・混雑検知
施設内の人の流れや混雑状況をリアルタイムで把握します。イベント会場や商業施設での群衆管理に活用されています。
2.2 主要なAI監視システム
AI Security Asilla(日立システムズ)
既設のIPカメラをそのまま利用し、不審行動・異常行動をAIが検知するシステムです。全国150か所以上の導入実績があり、複合施設、商業施設、公共施設、オフィスビル、工場などで活用されています。
OPTiM AI Camera(オプティム)
鉄道駅など公共施設での安全管理に活用されているシステムです。ホームに設置したカメラの映像から電車・乗客・黄色い線の位置関係をリアルタイム解析し、事故やトラブルの未然防止に貢献しています。
SECURE AI BOX(セキュア)
既存の監視カメラシステムに増設することで、顔認証による入退室管理や侵入・転倒などの行動検知が可能になるソリューションです。
2.3 導入効果と課題
導入効果
- 24時間365日の監視体制を少人数で実現
- 人的ミスによる見落としの削減
- 異常発生時の即座の検知と通知
- 膨大な映像データからの迅速な検索・分析
課題
- 導入コスト(初期費用+運用費用)
- プライバシー保護への配慮
- 照明条件や設置角度による認識精度の変動
- AI判断の誤検知(フォルスポジティブ)への対応
3. 自律走行型警備ロボット
AI警備ロボットは、人手不足を補完しながら監視品質を向上させる次世代ソリューションとして注目されています。日本では空港、大型商業施設、オフィスビル、万博会場などで導入が進んでいます。
3.1 主要な警備ロボット製品
REBORG-Z(ALSOK)
自動巡回や自動充電を行いながら継続的に警戒監視を行う警備ロボットです。異常発生時には警告や避難誘導を行い、警備員と連携して働きます。サーモカメラによる体温検知やオゾン発生による除菌機能も搭載しています。2025年大阪・関西万博を契機に、京都ポルタなど商業施設での実証実験も行われています。
cocobo(セコム)
成田国際空港で導入されている警備ロボットです。自律移動しながら巡回警備を行い、放置物やゴミ箱の点検も実施します。
SQ-2(SEQSENSE)
三菱地所本社などで運用されている警備ロボットです。2025年9月には人物検知機能を搭載した新バージョンが正式リリースされました。
ugo(ugo株式会社)
警備・点検・案内業務のDX化を支援するAIロボットです。データセンター、空港、オフィスビル、病院など幅広い施設で活用されています。第11回ロボット大賞優秀賞(ビジネス・社会実装部門)を受賞しています。
3.2 警備ロボットの主な機能
- 自動巡回:設定されたルートを自動的に巡回し、異常を検知
- リアルタイム監視:搭載カメラによる映像のリアルタイム送信
- 異常検知・通知:不審者や不審物の検知と即時通知
- 案内・誘導:多言語対応の音声・モニターによる案内
- 自動充電:バッテリー残量に応じた自動充電ステーションへの帰還
3.3 導入事例と効果
警備ロボットの導入により、一部の現場では人員を半減できた事例も報告されています。特に夜間警備や施設内の定期巡回など、ルーティン業務での活用が進んでいます。
ただし、警備ロボットは人間の警備員を完全に代替するものではなく、「人とロボットの協働」による警備品質の向上と業務効率化が目的です。異常発生時の最終判断や対応は、依然として人間の警備員が担う体制が一般的です。
3.4 導入コスト
警備ロボットの導入コストは製品や規模によって大きく異なります。
- 購入の場合:数百万円〜数千万円
- リースの場合:月額15万円〜30万円程度
リース契約にはメンテナンス費用が含まれている場合もあり、企業の予算とニーズに応じた選択が重要です。
4. AI顔認証入退室管理システム
顔認証入退室管理システムは、セキュリティ強化と業務効率化を両立するソリューションとして、オフィス、工場、フィットネスジムなど幅広い施設で導入が進んでいます。
4.1 市場動向
株式会社富士経済の調査によると、入退室管理システム(アクセスコントロール)の需要は拡大傾向にあり、2027年には815億円(2022年度比142.5%増)に達すると予想されています。
また、2023年から2025年にかけて、ICカード認証に代わり、顔認証やモバイルアクセス、QRコード認証の利用が増加しています。これは、より便利で高度なセキュリティ対策への移行を示しています。
4.2 顔認証システムの種類
ビジュアルベース(2D認証)
カメラで撮影した顔画像を2次元データとして処理する方式です。導入コストが抑えられるため、手軽に顔認証を始めたい場合に適しています。
IRベース(3D認証)
赤外線カメラによって顔の凹凸など奥行き情報をデータ化し、より高精度な認証を実現します。なりすまし防止に優れており、高いセキュリティレベルが求められる場所に適しています。
4.3 主要システム・サービス
SECURE AC(セキュア)
顔・指紋・カード・テンキーなど多様な認証デバイスに対応した入退室管理システムです。日清オイリオグループやヤマダイ食品など、食品工場でのフードディフェンス強化にも活用されています。
ALLIGATE
顔認証や勤怠管理、予約管理、会員管理、決済など外部サービスとの連携が豊富なシステムです。オフィスやフィットネスジム、学校施設など累計7,000社以上の導入実績があります。
AUTH thru KEY
顔認証入退場管理システム「AUTH thru」に電気錠を連動させたシステムです。電気錠システムとタブレットがあれば簡単に導入でき、マスク着用時でも高い認証率を実現します。
4.4 導入メリット
- 非接触認証:カード紛失の心配がなく、衛生面でも優れている
- なりすまし防止:本人以外の不正入室を防止
- 業務効率化:入退室ログの自動記録、勤怠管理との連携
- コスト削減:物理的な鍵の管理コストや警備員配置の削減
4.5 工場での導入事例
食品工場では、フードディフェンス(食品防御)の観点から顔認証システムの導入が進んでいます。
例えば、日清オイリオグループの横浜磯子事業場では、従来の指紋認証システムから顔認証システムへ移行し、非接触対応とセキュリティレベルの両立を実現しています。
ICカード認証と異なり、顔認証ではカードの貸し借りや紛失による不正入室リスクを排除でき、異物混入防止などの食品安全対策に貢献しています。
5. サイバーセキュリティとAI
物理的な警備だけでなく、サイバーセキュリティ分野でもAIの活用が急速に進んでいます。
5.1 AIによるサイバー攻撃対策
異常検知・脅威予測
AIがネットワークトラフィックやシステムログ、ユーザーの行動パターンを常に監視し、平常時と異なる不審な動きや未知の攻撃の予兆を自動検知します。過去の攻撃データや最新の脅威インテリジェンスを学習することで、将来の攻撃予測も可能になりつつあります。
SOAR(Security Orchestration, Automation and Response)
AIを活用してセキュリティアラートのトリアージ、脅威情報の収集・分析、インシデント対応の初動(不正IPアドレスのブロックなど)を自動実行するプラットフォームです。対応時間の短縮、人的ミスの削減、セキュリティ人材の有効活用に貢献します。
脆弱性の自動検出・修正
米国DARPAが開発したAIは、77%の脆弱性を発見し、61%を自動修正する能力を持つと報告されています。2026〜2027年には、脆弱性を自動修正する「セルフヒーリング型システム」が普及すると予測されています。
5.2 新たな脅威
AIの進化は防御側だけでなく、攻撃側にも利用されています。
- Deepfake攻撃:AI生成の偽動画・音声でCEOや同僚になりすまし、金銭を騙し取る
- マルチエージェント型AI攻撃:複数のAIが連携してサイバー攻撃を行う新たな脅威
- Promptware攻撃:生成AIに対するプロンプトインジェクション攻撃
これらの新たな脅威に対抗するため、AIを活用した防御システムの重要性がますます高まっています。
6. AI活用で変わる警備業務の未来
6.1 人とAIの協働モデル
今後の警備業界では、AIが人間を完全に置き換えるのではなく、「人とAIの協働」による新しい警備モデルが主流になると予想されます。
AIが担う役割
– 24時間365日の定常監視
– 大量の映像データの解析
– パターン認識による異常検知
– 定型的な巡回業務
人間が担う役割
– 最終的な状況判断
– 緊急時の対応・誘導
– 来訪者への対人対応
– AIでは対応困難な複雑な状況への対処
6.2 警備員に求められる新しいスキル
AIの導入により、警備員に求められるスキルも変化しています。
AIリテラシー
AIが検出した異常を正確に判断し、適切な対応策を講じる能力が求められます。AIが「不審な人物がいる」とアラートを発した場合、単にその情報に振り回されるのではなく、映像を詳細に分析し、状況を正確に把握する必要があります。
データ分析能力
AIが生成する膨大なデータを活用し、より高度なセキュリティ対策を実施する能力が重要になります。
緊急対応スキル
AIでは対応できない緊急事態への対処能力は、引き続き人間の警備員に求められる重要なスキルです。
6.3 業界のDX推進
警備業界全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が進んでいます。
- AI監視カメラやドローン巡回の導入
- クラウド型勤怠管理・報告書システムの活用
- ウェアラブルカメラによる現場状況の共有
- スマートグラスを活用した遠隔支援
これらのDX施策により、人手不足を補いながら警備品質を向上させることが可能になります。
7. 個人・中小企業向けAIセキュリティソリューション
大企業だけでなく、個人や中小企業でも導入しやすいAIセキュリティソリューションが増えています。
7.1 家庭向けAIカメラ
スマートホーム向けのAI搭載防犯カメラは、数千円から導入可能です。人物検知、異常行動アラート、スマートフォンへの即時通知など、基本的なAI機能を備えた製品が普及しています。
7.2 クラウド型入退室管理
中小企業向けのクラウド型入退室管理システムは、初期費用を抑えながら顔認証やスマートロック機能を利用できます。月額数千円から導入可能なサービスも増えています。
7.3 AI活用のポイント
個人や中小企業がAIセキュリティを導入する際のポイントは以下の通りです。
- 目的を明確にする(防犯、入退室管理、勤怠管理など)
- 導入コストと運用コストを事前に確認
- プライバシー保護への配慮(撮影範囲、データの取り扱い)
- トラブル時のサポート体制の確認
まとめ
警備・セキュリティ業界は、深刻な人手不足と高齢化という課題に直面する中、AI技術の活用によって大きな変革を遂げようとしています。
本記事のポイント
- AI監視カメラは、リアルタイム映像解析により異常検知・侵入検知・顔認証を自動化
- 警備ロボットは、自動巡回により人手不足を補完しながら監視品質を向上
- 顔認証入退室管理は、セキュリティ強化と業務効率化を両立
- サイバーセキュリティ分野でもAIによる異常検知・自動対応が進化
- 今後は「人とAIの協働」による新しい警備モデルが主流に
AI技術の進化により、警備業界は「より少ない人数で、より高品質な警備を提供する」時代へと移行しています。人手不足という課題を乗り越え、テクノロジーと人間が融合した新しい警備スタイルが確立されることで、より安全で安心な社会の実現が期待されます。
AIを活用したセキュリティソリューションの導入を検討している方は、まず自社の課題を明確にし、目的に合ったシステムを選定することが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1: AI監視カメラを導入するメリットは何ですか?
A1: 24時間365日の自動監視が可能になり、人的ミスによる見落としを削減できます。異常発生時には即座に検知・通知され、迅速な対応が可能です。また、膨大な映像データからの検索・分析も効率化されます。
Q2: 警備ロボットは人間の警備員を完全に置き換えますか?
A2: 現状では完全な置き換えではなく、「人とロボットの協働」が主流です。ロボットは定期巡回などのルーティン業務を担い、異常発生時の最終判断や対応は人間の警備員が行う体制が一般的です。
Q3: 顔認証システムのプライバシー問題はどう対処すればよいですか?
A3: 顔データの利用目的を明確にし、必要なくなった際は速やかに削除する運用が重要です。また、撮影範囲やデータの取り扱いについて、法律や社内規定に基づいた適切な管理が必要です。
Q4: 中小企業でもAIセキュリティは導入できますか?
A4: 可能です。クラウド型サービスの普及により、初期費用を抑えながら顔認証やAI監視カメラを導入できるようになっています。月額数千円から利用できるサービスも増えています。
Q5: AI警備システムの誤検知にはどう対処すればよいですか?
A5: AIの判断を最終とせず、人間による確認プロセスを設けることが重要です。また、導入後も継続的にAIの学習データを更新し、認識精度を向上させる運用が推奨されます。
本記事は2026年1月時点の情報に基づいて作成されています。サービスの料金や機能は変更される可能性がありますので、最新情報は各公式サイトでご確認ください。